やさしいいばしょでは、一人ひとりが自分のペースで言葉や表現と出会える場を大切にしています。今回は、zine制作を通して、個人の感覚や日常のまなざしを丁寧に形にしている makijaku製作室 の 大島 さんにお話を伺います。
zineを作り始めたきっかけや、制作の中で大切にしていること、手に取る人との距離感について。静かに紡がれてきた言葉を、そのままお届けします。
つくることが、日常の中に
zine制作を始めたのは、どのようなきっかけからだったのでしょうか。当時のご自身の状況や、「作りたい」と感じた背景について教えてください。
もう20年近く前のことになりますが、子育ての傍ら、手作りの作品を委託販売して頂いていた頃、そのお店の店主さんが、ご友人と小冊子を作り、販売されたことがあったんです。掲載したい内容や写真、紙質などにこだわって、ご自身たちで作られている様子を目の当たりにして、それは、それは感動したんです。
紙素材のものが好きで、レターセットやラッピングペーパー、紙袋、紙質やデザインがオシャレでかわいいものを集めていた私にとっては、余計に印象に残ったんだと思います。小冊子をいつか私も作ってみたいと思ったのは、その時でした。
数年後、そうした自主制作による小冊子のことをmagazineのzineから、ZINE(ジン)と呼ばれていることを知ることになります。そして、間もなく私が暮らす町で、ZINEのイベントが開催されることを知って会場を訪れると、色も形も様々なZINEが、所狭しと並んだ様子に心掴まれます。それぞれの作品が、とても自由でキラキラしていて、私も作ってみたいという想いはより強くなりました。

翌年も開催されると知って、初めてのZINEを作り、そのイベントへ参加したのです。家事と子どもたちとの時間が日常だった中で、その役割とは異なる素の自分が、心から「やってみたい」と思えたのは、とても稀なことだったと思っています。
名前に込めた思い
初めて聞いたとき、「makijaku製作室」という名前って、とっても素敵だなって思いました。この名前に込めた意味や、名付けにまつわるエピソードがあれば教えてください。
手作りの作品を委託販売して頂いていた頃は、矛盾という言葉から、tatetohoko(タテトホコ)と名乗っていました。自身の思考や行動に一貫性が無いところがあり、矛盾を感じていたからです。
趣味の範囲の活動から、個人事業として活動していこうとした頃、そうした矛盾を抱えながらも、それをそのまま受けとめていくしかないのだと思えるようになって。例え、どんな面があったとしても、変化したとしても、その時々の自分の基準で判断していくことを大切にしたいと思い「基準」という言葉から連想するものを屋号にしたいと考えました。


いくつか候補をあげたものの、どれも決定打に欠け、ぼんやりしていた時、ふと部屋の片隅にあった手巻きの巻尺に目が留まり、makijakuという言葉を使うことにしたのです。その後、引越しをして、自宅の一室を私のアトリエとして使わせてもらうことになり、その空間を開放しお店としてOPENする際に、私だけでなく訪れる人たちにとっても、何かを作る場になればと「製作室」と名付けました。
zineを作り続けること
zineという媒体を選び、作り続けている理由があったりしますか?何か、本やSNSとは異なる、zineならではの魅力があれば教えていただけると嬉しいです。
もともと紙素材が好きなことも大きな要因だと思いますが、手作りで手触りのあるものが持つ温もりや、作り手の熱意が、ダイレクトに感じられるところに魅力を感じています。自分で作れる分だけ、顔が見える手の届く範囲の人たちへ届けることが出来るZINEは、本当に届けたい人へ、想いが届く人へ届けることができ、その出会いのキッカケにもなると思っていて。

そして作る過程で、今、自分が何を表現したいのかを考える工程が、とても大切な時間になっていると思うのです。それは、自身の現状や傾向を知ることでもあり、日々の暮らしの中で見落としていたこと、蓋をしてしまっていたこと、後回しにしていたことに気付く時間でもありました。
そうした意味でも、ZINEを作るという行為は、私が私らしさを保ちながら生きていく上で、無くてはならないものになっている気がします。
つくるときに、そっと守っていること
制作の過程で、「これは大切にしたい」と意識していることはありますか?言葉の選び方や装丁、分量など、細部へのこだわりがあれば教えてください。
言葉や文章に関しては、日記や呟きの延長のようなものが多く、あまり意識していないのが現状です。
仕様については、家庭のプリンターで、好きな紙に自分で印刷して製本することがほとんど。

紙が好きなので、材質にこだわりたいのと、色や形についても、私が好きと感じる要素を盛り込んでいます。そうした手作業を経て、作品が私の想いを纏った、分身になっていく気がしています。
読む人との、ちょうどいい距離
zineを手に取る人に対して、「こう読んでほしい」「ここは任せたい」といった思いはありますか?
私の作品の傾向として、内省するようなエッセイが多いのですが、包み隠さず書く傾向にあるので、時には、その文章に衝撃を受けたり、傷つく方もいらっしゃるかもしれません。
それは、その人が持つ何かと呼応しているからかもしれない。みんながみんな、自分と向き合うことは難しいかもしれないし、タイミングもあると思いますが、そのキッカケや種がそこにあればいいなと思っています。

読むタイミングもそれぞれですし、1回目と2回目とでは、その印象も変わると思うので、その違いに気付く面白さも楽しんでもらえたら。
表現が居場所になるとき
zine制作は、大島さんご自身にとって、どのような「居場所」になっていますか?また、読む人にとっても、どんな時間や空間になると思いますか?
ZINE制作は、私が私らしいままいられる時間と居場所ですね。読む人にとっては、初見では知り得ない様々な面が見えることで、接点がみつかる可能性があると思っています。

同じような経験をしていたり、似たような感情や感性をもっていたり、或いは異なる視点を見つけたり。共感と、新しい視点のどちらも、今後、様々な場面を受けとめたり受け流すうえでも、捉え方として、一つの選択肢になるといいなと思います。
これから、つくってみたい風景
これまでの制作を振り返って見えてきたこと、そして、これから挑戦してみたい表現やテーマがあればぜひ教えてください。
これまでの作品は、重たい内容のものが多かったので、ポケットに入れて持ち歩くくらいの、気軽さのあるZINEを作りたいと思っています。
一方で、来年50才になるのを機に、3年がかりのZINEも作る予定にしています。やっぱり矛盾してますが、どちらも作りたいものなので、楽しみながら制作できたらいいなと思っています。
自身の制作だけでなく、主催としてこれまで開催してきたZINEイベント(UNIMAKIZINE・BLOOM)を通して、作り手同士の交流が生まれたり、作り手とファンとの感動的な出会いの場面に遭遇したり、それぞれが自己開示して作り、発表したその先を、たくさん見せて頂きました。
その連鎖を絶やさないためにも、今後もイベントの開催を続けていきながら、皆さんが気軽に発表しやすい場として、育てていけたらと思います。ZINEを通じた繋がりから、昨年末に魚ん町+(旧魚の町団地)でZINEのイベントをさせて頂きました。今後は、イベントだけでなく、魚ん町+を拠点としたZINEのサークルを立ち上げて、定期的に情報交換ができる場づくりにもチャレンジしていきたいです。
最後に
zineは、誰かの手の中でそっと息を始める表現です。大島さんのお話からは、言葉や紙を通して、人とつながるためのやさしい工夫が感じられました。大島さん、この度は貴重なお話をありがとうございました。やさしいいばしょ一同、makijaku製作室 大島さんのこれからの制作を心から応援しています。